2014年8月19日

動力を全く使わずに人の歩行をアシストする『無動力の歩行支援機アクシブ（ＡＣＳＩＶＥ）』の開発の状況が、８月１７日のＴＢＳのＴＶ番組「夢の扉」で放映されました。アクシブは名古屋工業大学　機能工学専攻の佐野明人教授（右の写真の方）が、義足メーカー（株）今仙技術研究所の協力を得て開発を進めています。今回は、佐野明人教授、（株）今仙技術研究所、ＴＢＳの公表記事・写真を引用して、アクシブの紹介をします。

ＴＶ番組「夢の扉」の中で、アクシブを脚に装着した高齢者の女性が山道を軽やかに登っている姿が紹介されていました。アクシブを装着することで、足が自然に前に出て楽に歩けるとのことです。脊髄損傷を負い、やっと杖などを使って何とか歩けるまでに回復した会社員の方の場合、アクシブを装着することで、自分の足で歩いて通勤し、会社のデスクワークも他の会社員と遜色なくこなしている姿が紹介されていました。この会社員の方は、自分が動いてもモーターの電動音などがないので周りに気を遣わなくて済むと、音のしないことにも満足されていました。

動力なしで人の歩行を強力にアシストするアクシブは、どのような理論に基づいて開発されたのでしょうか。

アクシブは『受動歩行』理論に基づいて作られています。『受動歩行』とは①センサー、アクチュエーター及び制御を一切用いずに、歩くことができる。②脚軌道があらかじめ決められているわけではなく、環境との相互作用のみによって歩容を生成する。③自然でエネルギー効率が高いことで知られ、人の歩行に近いとも言われている。以上の特徴を持つものです。佐野明人教授は、１０年に亘りこの『受動歩行』の研究に独自に取り組み、受動歩行の安定化原理（歩ける原理）及び脚の振り運動に関わる力学的メカニズム（転ばない原理）において大きな研究成果を挙げています。写真は、その研究成果を基に佐野明人教授が作った受動歩行ロボットです。下り傾斜の坂道を歩くときに生じるエネルギーをうまく使って、振り子のように歩きます。少し下り傾斜をつけたトレッドミル（ランニングマシーンのようなもの）上を受動歩行ロボットが一度も止まることなく１３時間４５分の連続歩行（約１０万歩・約１５ｋｍ）を行い、ギネス世界記録に認定されました。

受動歩行ロボット技術の応用として、受動歩行の歩く姿が人の歩行と非常に近いという特徴を活かし、歩きが弱った人の為の歩行支援機の早期実用化を目指しており、それがアクシブということになります。アクシブはモーター・バッテリーを使わず、重力とバネの力だけで人の歩行をアシストします。アクシブ試作機は、身体の片側が麻痺（まひ）した「片麻痺」の人の歩行を助ける強化スーツとして、２０１２年度に福祉現場で実証試験をスタートさせました。試作機は重さ１．５キロの金属製です。腰から下に装着し、膝（ひざ）の部分が折れ曲がるようになっています。麻痺のある方の脚に装着すると、正常なもう一方の脚が前に進むのに反応して振り子のように動作し、麻痺の脚を前に出す働きをします。麻痺している脚は筋肉が硬直していますので、単に前に出るだけでは、足が地面に擦れてしまいます。そこで、前に進む際に装置の膝の部分が後ろに折れ曲がるように細工し、腿（もも）が先に進み、脛（すね）がその後に前に来るようにしています。実験では、アクシブを使うと、麻痺した脚の膝が３０度多く曲がるようになりました。アクシブを使うと、歩くときに、歩幅を広げたり、脚が前に出やすくなったりするのです。

アクシブは大掛かりなモーターや制御装置を必要としないため、軽量かつ安全で、導入・運用コストを抑えることができるという特徴を持っています。想定される用途は、①高齢者や歩行弱者などの歩行支援、②歩行リハビリテーションのための理学療法士の教育・訓練、③片麻痺患者ほかの歩行リハビリテーションなどです。この他にも、健常者で足腰が少し弱ってきた人の山登りなどにも使えそうですね。

現在、リハビリ病院などで臨床評価などを行っており、今年秋の発売を予定しているとのことです。販売するアクシブは、カーボンファイバーを使って９００ｇに軽量化しています。発売を待ち望んでいる方が多いのではないでしょうか。