夏場の電力ピークカット
夏場の電力ピークカット
2011年6月16日
政府は今夏の電力需給対策として、東京電力、東北電力の管内全域で、昨年夏のピーク電力量に対して15%の削減を、大口需要家、小口需要家、一般家庭に対して一律に要請しています。東日本大震災の影響で多くの原発が運転停止となり、定期検査で停止中の原発も運転再開は当面難しい状況です。計画停電を回避する為には、やむを得ない措置かも知れません。日本の社会全体で省エネを一気に加速する契機、日本の社会が大きく変わる契機にもなるかも知れません。ちなみに、全国の原発54基のうち運転中は19基だけ、24基は定期点検で停止中、11基は大震災で停止中、更に今年中に定期点検の為12基が停止するそうです。
はたして、定期点検中の原発の運転再開は出来るのでしょうか?
ところで、従来から夏場のピーク電力を低く抑える為の仕組みが実施されていることはご存知ですか。電力ピークを低く抑えることを電力ピークカットと呼んでいますが、電力会社の経営にとっては非常に重要な施策となっています。
年間を通しての消費電力のピークは、一般的には夏場の日中です。電力会社にとって、この夏場の電力ピークを乗り切ることが出来れば、それ以外の時は発電能力は余っていますので、この夏場の電力ピークこそが最大の課題です。本来はこの電力ピークに合わせた発電設備・発電能力を準備すればいい訳ですが、そうすると、夏場の日中以外は、発電所の稼働率は大幅に落ち、又は電気が大幅に余ることになります。電力会社にとっては、投資に見合う収益が得られない、経済的に非常に効率の悪い結果となります。従って、この夏場の電力ピークを如何に”政策的に”低く抑えるかが重要になります。
電力会社では、電力ピークを政策的に抑える施策として、次の二つを進めてきています。
(1)契約電力とデマンドコントロール
高圧受電のビルや工場などでは、デマンド(30分間の平均使用電力)の最大値を基準に、以後1年間の契約電力が決定される仕組みにしています。最大デマンドが大きくなるほど契約電力が大きくなり、基本料金が高くなります。夏場に一時的にせよ高いデマンドが発生すると、その後1年間、需要家は高い電気料金を負担することになります。
一方、需要家側の対応策としてデマンドコントロールがあります。コントローラによって電力使用状況をチェックし、設定した使用電力値を超過しそうなときは、警報を発したり、自動的に機械・装置への電力供給を止めることにより、電力使用量を一定以下に抑えます。空調(冷房)装置などは、まっ先に電力供給停止(一部停止)の対象になります。
電力会社は、契約電力と組み合わせる形で、デマンドコントロールの導入を推奨しています。
(2)氷蓄熱空調システム
氷蓄熱空調システムは、電力消費の少ない夜間電力を利用して製氷し、日中にその氷を解かして冷房に利用するものです。これにより日中の冷房消費電力を低く抑えます。夏場の電力ピークの抑制だけでなく、昼夜間の電力消費の平準化を図る目的から、夜間の電気料金は通常の1/4ないし1/3程度に設定されています。
大規模ビルなどでは、夜間に製氷装置で作った氷を解かして冷水又は氷水を作り、これと空気を熱交換させて冷たい空気を作って、冷房を行うタイプが一般的です。
中小規模ビルなどでは、いわゆるエアコンと氷蓄熱を組み合わせたタイプの、氷蓄熱ビル用マルチ空調システムが一般的です。夜間にエアコン自体の氷蓄熱ユニットで氷を作り、日中に冷房運転中のエアコンの冷媒(凝縮冷媒)を氷で冷却することにより、少ない消費電力で高い冷房能力を発揮させることが出来ます。同じ消費電力で約30%程度の冷房能力アップが可能です。(今から20年くらい前、私は空調システムの開発技術者として、この氷蓄熱ビル用マルチ空調システムの開発にも取り組みました。かなり難しい商品です。)
電力会社は、この氷蓄熱空調システムの普及を、非常に熱心に推進しています。
以上が、夏場の電力ピークを低く抑える為に電力会社が行っている仕組みの説明です。
最近、ハイブリッド車や電気自動車の普及に伴い、蓄電池の高性能化、低価格化が急速に進みつつあります。将来、電力会社だけでなく、企業や一般家庭にも蓄電池の大量導入が進むと、世の中の仕組み自体が大きく変わってしまうかも知れません。太陽光発電などの自然エネルギーの拡大と蓄電池の普及は、身近で電気を作って使う分散電源社会への移行をもたらすそうです。その上、蓄電池によって、必要な時に必要なだけ電力を供給できるようになれば、夏場の電力ピークを抑える電力会社の努力も、必要のないものになるかも知れません。