扶養義務
今月の民法サークル「扶養義務」
2014年8月22日
静岡大学名誉教授の平野先生を囲んで月一回開いているサークル活動「民法サークル」において、平野先生からお話し頂いた内容を、毎回かいつまんで紹介しています。
【7月民法サークル】
7月の民法サークルのテーマは「扶養義務、私的扶養」に関するものでした。今回紹介する例題は次の通りです。
【例題】
『老後は子供らの世話にならない、と豪語していた父ですが、たっぷりあったはずの蓄えを株取引の失敗からすべて失いました。日頃から父と折り合いの悪かった長男夫婦はますます父を遠ざけていますし、次男夫婦は子供が多い上に狭いマンションで苦しい生活を続けています。長女は遠方に嫁ぎ、その夫の親と同居して、やはり老人介護をしながらの生活です。そこで独身で経済的にもゆとりのある末子である私が、何かにつけ父の面倒を見させられているのですが、私とて今後結婚も考えているし、一人で重荷を背負って生きたくありませんが、父に関しては誰がどんな順序でどの程度の扶養義務を負うのでしょうか。私が今日まで、一人で負担してきた扶養料を他の兄姉に求償できるでしょうか。』
【解説】
民法877条(扶養義務者)に「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。 2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。 3 (省略)」とあります。
民法878条(扶養の順序)に「扶養をする義務のあるものが数人ある場合において、扶養をすべきものの順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。」とあります。
直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養する義務を負い、扶養義務者の間に順序はありません。扶養義務者間で扶養の協議を行うことが原則です。協議が調わないときは、家庭裁判所に審判を求めることになります。
一人が負担してきた扶養料を他の扶養義務者に対して求償する求償権は認められています。相手が応じないときは、家庭裁判所に審判を求めます。家庭裁判所の審判に従わない場合の罰則はありませんが、家庭裁判所の命による強制取立ても考慮してもらえます。
扶養義務に関しては、「養子の実親」「認知された子の親」「子の親権を持たない離婚した一方の親」などに対しても、子は扶養義務を負います。兄弟姉妹は、全血(両方の親が共通)であろうと半血(一方の親が共通)であろうと扶養義務を負います。
これらの扶養義務は「私的扶養」と言われるもので、生活保護法などに基づく「公的扶助」と対極にあります。私的扶養が公的扶助に優先するものとされ、「国は国民の生活の面倒は見ない」ということの宣言だそうです。
(所長)