子の後見
今月の民法サークル「子の後見」
2014年5月2日
静岡大学名誉教授の平野先生を囲んで月一回開いているサークル活動「民法サークル」において、平野先生からお話し頂いた内容を、毎回かいつまんで紹介しています。
【4月民法サークル】
4月の民法サークルのテーマは「子(未成年者)に対する後見」に関するものでした。今回紹介する例題は次の通りです。
【例題】
『私は2年前に夫と離婚しました。2人の子供は私が親権者となり引き取りました。離婚の原因は夫の博打や夜遊び、妻子に対する暴力でした。私は実家に戻り、両親の下でやっと平穏な暮らしを取り戻しましたが、不幸なことに、先頃乳癌と診断され、手術はしたものの経過が悪く、余命は長くないと覚悟を決めています。しかし子供は2人ともまだ小学生ですから、それを思うと死にきれません。幸い私の父母はまだ若いので2人の子供を父母に託したいと思いますが、私が死んだと知ったら、きっと別れた夫が子を連れ戻しにくるでしょう。しかしあの人と一緒では子らが不幸になるのが目に見えていますので、絶対あの人に子を託すわけにはいきません。私の両親は、祖父母の立場でどこまで孫を守ってやれるのか、法的にどんな権限があるものなのか、自分たちが親代わりになれるのだろうかと不安に思っているようです。私が死んだら子の親権はどうなるのでしょうか。』
【解説】
母親が亡くなった場合に、即父親の親権が復活するわけではありません。(即復活するという学説もありますが、即復活する訳ではないという学説が多数です。)父親の行状が悪いので、親権を復活させるのは相応しくないと扱われます。この様な場合は、「親権」に対して「後見」という制度があります。
民法第838条には「後見は、次に掲げる場合に開始する。一.未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。二.後見開始の審判があったとき。」
民法第839条「未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。 2 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。」
民法第840条「前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。」
例題の場合の母親(私)の不安を解決する対応策としては、上記民法の規定から、二つの方法があります。
①親権者の代わりとなる未成年後見人を指定する遺言を書きます。(これを『指定後見』と言います。)母親(私)が、遺言によって自分の父又は母を未成年後見人に指定することにより、母親が癌で亡くなった場合、父(子供の祖父)又は母(子供の祖母)が後見人になります。遺言は自筆証書遺言でも公正証書遺言でも構いません。自筆証書遺言の場合は、遺言のルールを正しく守って作成するよう、注意が必要です。
②未成年者の親族や利害関係人が家庭裁判所に未成年後見人選任の申立てを行います。(これを『選定後見』と言います。)母親(私)が亡くなった場合に、その父母(子供の祖父母)が家庭裁判所に申立てを行い、祖父又は祖母が子供の未成年後見人に就任します。
尚、対応策としては、遺言を書くほうが確実ですね。遺言の活用をお勧めします。
(所長)