認知無効の訴え
今月の民法サークル「認知無効の訴え」
2013年8月25日
静岡大学名誉教授の平野先生を囲んで月一回開いているサークル活動「民法サークル」において、平野先生からお話し頂いた内容を、毎回かいつまんで紹介しています。
【8月民法サークル】
8月の民法サークルのテーマは「認知無効の訴え」に関するものでした。今回紹介する例題は次の通りです。
『夫は先頃病死しました。死亡した後、夫の書類箱から遺言が発見されましたが、そこに愛人に生ませた子Ⅹがいること、その子を自分の子と認知する旨が書かれていました。私はうすうす気が付いていましたので、別段驚きませんでした。晩年は事業に失敗した夫のことですから、遺産らしきものはほとんどありませんし、相続でもめることも考えられませんから、戸籍法の手続きに従って認知の届出をいたしました。ところが、今は社会的地位を築き、名誉を重んじるⅩ氏から、夫のことを自分の父親ではありえない、届出を撤回してくれ、といってきました。私としては、今となってはどちらでもかまわないのですが。』
民法第782条(成人の子の認知)には「成人の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。」とあります。例題の場合、Ⅹ氏は明らかに成人だとわかりますので、通常であれば、認知を承諾せず拒否することができます。しかし例題の場合、遺言で認知を行っており、遺言を書いた時点で子が未成年であれば、遺言者が死亡した時には子が成人に達していても、子の承諾を必要とせずに認知の手続きが行われます。例題には詳細は記載されていませんが、遺言を書いた時点でⅩ氏が未成年であったことから、認知の届出が受理されたものと思われます。
「認知をした父または母は、その認知を取り消すことはできない。」と民法第785条に規定されていますので、認知の届出の撤回はできません。この場合、Ⅹ氏が取ることのできる手段として、民法第786条による「認知無効の訴え」があります。認知に対して反対の事実を主張して、検察官を相手にして、「認知無効の訴え」を行うことになります。
(所長)