農地の所有権移転と相続・遺言、死因贈与との関係
お客様から、長女の農地を母である自分の名義に変えたいとの相談がありました。長女は父親の農地の一部を相続しましたが、必要ないので母親に引き取ってもらいたいと要請されたということでした。
農地は農地法の規制を受けていますので、売買や贈与、用途変更などをする場合は、法務局で土地の名義変更や地目変更をする前に、農業委員会への許可申請や届出が必要です。農地が市街化区域にある場合は対応は比較的容易ですが、農地が市街化調整区域にある場合は厄介です。
今回の依頼は、農地を用途変更せず贈与により所有権移転するということでしたので、農地法第3条に該当し、農業委員会の許可が必要でした。残念ながら許可基準を満たさない部分がありましたので、所有権移転はできませんでした。
他に何か所有権移転の方法はないでしょうか。以下に纏めてみました。
1.相続による農地の承継
(1)遺言が無く、法定相続人全員による遺産分割協議によって農地を相続する場合
・農地を相続する法定相続人は、農地法第3条の許可申請をする必要はなく、届出だけで足ります。
・法定相続人への農地の所有権移転ができます。
(2)遺言が有り、法定相続人が遺言によって指定された農地の遺贈(特定遺贈)を受ける場合
・特定遺贈により農地の遺贈を受ける法定相続人は、農地法第3条の許可申請をする必要はなく、届出だけで足ります。
・法定相続人への農地の所有権移転ができます。
(3)遺言があり、第三者が遺言によって指定された農地の遺贈(特定遺贈)を受ける場合
・特定遺贈により農地の遺贈を受ける第三者(法定相続人以外)は、農地法第3条の許可申請をする必要があります。
・許可基準を満たし農業委員会の許可を得た場合は、所有権移転ができます。
・許可が得られない場合は、所有権移転はできません。遺贈の放棄をして農地を法定相続人に返却する等、対応を考える必要があります。
(4)遺言があり、法定相続人または第三者が遺産について割合を指定されて遺贈(包括遺贈)を受ける場合
・包括遺贈を受けた法定相続人または(及び)第三者の間で遺産分割協議を行い、その結果農地を承継することになった法定相続人または第三者は、農地法第3条の許可申請をする必要はなく、届出だけで足ります。
・該当する法定相続人または第三者への農地の所有権移転ができます。
2.死因贈与による農地の承継
(1)死因贈与契約によって農地の贈与を受ける場合
・農地について死因贈与契約をし農地の贈与を受ける受贈者は、農地法第3条の許可申請をする必要があります。
・許可基準を満たし農業委員会の許可を得た場合は、所有権移転ができます。(ただし、登記手続にあたって法定相続人全員の協力を得る必要があります。)
・許可が得られない場合は、所有権移転はできません。法定相続人と協議等をし、対応を考える必要があります。
3.農地の用途変更を行う(ちょっと今回のテーマからは外れますが…。)
(1)農地を農地以外の宅地や雑種地に地目変更を行ったうえで贈与などを行う場合
・農地を宅地や雑種地に変更する場合は農地法第4条の適用を受け、農地を宅地や雑種地に変更して他者に所有権を移転する場合は農地法第5条の適用を受けます。
・農地が市街化区域にある場合は、所有者は農業委員会への届出だけで足ります。地目変更と所有権移転ができます。
・農地が市街化調整区域にある場合は、所有者は農業委員会に許可申請を行い、許可を得ることが必要です。許可基準を満たし農業委員会の許可を得た場合は、地目変更と所有権移転ができます。農業委員会の許可が得られない場合は、地目変更も所有権移転もできません。