胎児と相続
今月の民法サークル「胎児と相続」
静岡大学名誉教授の平野先生を囲んで月一回開いているサークル活動「民法サークル」において、平野先生からお話し頂いた内容を、毎回かいつまんで紹介しています。
【9月民法サークル】
9月の民法サークルのテーマは「胎児と相続」に関するものでした。今回紹介する例題は次の通りです。(2014年9月26日 実施)
【例題】
『私は3人の子供のある男性のもとへ後妻として嫁ぎました。夫とは年齢の差も大きかったし、すでに3人の子供がいるのですから、私自身は子供を生むつもりがありませんでした。夫は結婚後2年もしないうちに心臓病で急死しました。私はまわりからとやかくいわれないように、早々に公平に財産を分割する方法をとり、ひと段落ついたところで、自分が夫の子を身籠っていたことを知りました。もっと早く気がつくべきでしたのに、夫を亡くしたショックとその後の始末に忙殺されて、自分の身体の異常をすっかり見落としていたのです。数か月後に子供は無事出生しました。しかし、この子には夫の遺産は残されておりませんのでかわいそうでなりません。』
【解説】
民法886条(相続に関する胎児の権利能力)「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。 2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。」
戦前までは<停止条件>で捉えられていたため、「胎児は生まれたときに人と扱う」とされていました。
現在は<解除条件>で捉えられているため、「胎児は人とみなす。死んで出たときのみ人とみなすことを解除する」ということになります。この相続権と損害賠償請求権については、「胎児は生まれたものとみなす」と扱われます。生まれるまでは、母親が法定代理人となります。
従って、この例題の場合、もともとの権利者(相続人)である胎児を欠いて遺産分割をしているので、遺産分割は無効となります。
尚、刑事上(刑事事件、刑事裁判)は、胎児の身体の一部が出た時が「出生」と判断します。民事上は、胎児の身体の全体が出た時が「出生」と判断します。
(所長)