挙式後の入籍前の死亡
今月の民法サークル「挙式後の入籍前の死亡」
静岡大学名誉教授の平野先生を囲んで月一回開いているサークル活動「民法サークル」において、平野先生からお話し頂いた内容を、毎回かいつまんで紹介しています。
【11月民法サークル】
11月の民法サークルのテーマは「結婚式を挙げた後の入籍する前の死亡」に関するものでした。今回紹介する例題は次の通りです。(2014年11月28日 実施)
【例題】
『一人息子が交通事故で即死しました。息子は先頃結婚式を挙げたばかりで、まだ入籍を済ませていませんでした。将来を楽しみにしていた私はもちろんのこと、嫁の受けたショックは絶大でした。息子には遺産といえるものはほとんどありませんが、嫁と私の間で若干の揉め事が生じました。まず葬儀にあたって喪主はだれがつとめるか、葬式費用はどちらが負担するか、遺骨はどちらが引き取るか、で揉めています。
次に、息子が死亡したので、家主から嫁に対して借家の明け渡し要求がありましたが、嫁はいましばらくここに居住していたいので、何とかしてほしいと私に泣きついてきました。どうしたらいいでしょうか。次に問題になったのは、加害者に対する損害賠償請求する権利は誰にあるのか、ということです。また、息子は保険金の受取人を妻とする生命保険をかけていましたが、母である私は一切貰えないのでしょうか。また息子の会社から死亡退職金がでるそうですが、誰が受け取る権利を有するのでしょうか。息子が結婚にあたり、挙式費用として知人から200万円を借金していましたが、この支払い義務は誰にあるのでしょうか。』
【解説】
先ずいえることは、入籍を済ませていないので、嫁は相続人にはなりえない、妻の地位は確立していない、ということです。入籍を済ませていない一人息子が亡くなったので、相続人は親だけということになります。これを大前提に、例題の対応方法を考えます。
①喪主は誰がつとめるのか
法律上の問題ではないので定めはないが、親が喪主を務めるのが原則となります。
②葬式費用はどちらが負担するか
葬式費用をだれが負担するかは特に決まりはありませんが、一般的には、遺産を受けた人が出します。
③遺骨はどちらが引き取るか
法律上の問題ではなく、話し合って決めるべき問題。後々のことを考えると、親が引き取った方がよさそうです。
④家主からの借家の明け渡し要求
借家権は正式の妻でなくても認められます。従って、明け渡しの要求は拒否することができます。
⑤加害者に対する損害賠償請求の権利者
相続人が権利者となります。従って親が権利者です。
⑥生命保険金の受取人
受取人が妻になっていますので、全額妻が受け取ります。この場合、生命保険金は遺産ではありません。
⑦死亡退職金の受取人
会社の規定にもよりますが、一般的には相続権のある人に渡すことになります。
ただし、内縁関係の夫の収入で妻が生活している場合には妻が受け取る、という最高裁の判例もあります。
⑧知人からの200万円の借金の返済義務者
亡くなった人(被相続人)の借金は遺産(マイナスの遺産)になりますので、相続人が支払うことになります。
尚、内縁関係にある者には、加害者に対して慰謝料請求権を認めるべき、というのが学者間の主流の考え方とのことです。この例題の場合、嫁は内縁関係にある者といえますので、加害者に対して慰謝料請求はできると考えられます。
(所長)