手術支援ロボット「ダヴィンチ」
最新のハイテク技術を搭載した手術支援ロボットが、これまでの開腹手術や内視鏡手術に代わって、患者に優しい新しい手術の方法を実現しています。今回は、藤田保健衛生大学病院、東京医科大学病院などの公表記事・写真を引用して、最新の医療技術の状況を紹介します。
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今回の主役は da Vinci ダヴィンチ(da Vinci Surgical Systemダヴィンチ外科手術システム)と呼ばれるマスタースレイブ型内視鏡下手術用医療ロボットです。米国インテュイティヴ・サージカル社が開発し、2000年7月にアメリカ食品医薬品局より承認されました。日本では2009年に厚生労働省薬事・食品衛生審議会で国内の製造販売が承認されました。2014年9月現在、世界で3098台が導入され、日本国内では大学病院や大病院を中心に183台が導入されています。
今のところ保険適用ができるのは「前立腺がん」の手術だけですが、先進医療の対象として「胃がん」手術が承認された例があります。泌尿器科、産婦人科、消化器科、呼吸器科などで治療実績が積み上げられていますので、いずれ保険適用範囲が広がるものと思われます。
サージョンコンソールは、執刀医が手術を行ういわばコックピットです。ビューポートを覗き込み、3D(三次元)表示モニターを見ながら、手では2本のマスターコントローラーを、足ではフットスイッチを操作することにより手術を行います。
実際に手術を行うのは、ダヴィンチのペイシャントカートです。ペイシャントカートは、サージョンコンソールより発せられた執刀医の指示を忠実に実行します。ペイシャントカートには専用カメラの装着アーム1本と、ダヴィンチ用の鉗子の装着アームが2又は3本あります。ダヴィンチの鉗子は多関節の高性能鉗子で、さまざまなタイプの鉗子や尖刀などが準備されています。また、執刀医の手と鉗子の動きの縮小倍率を調整することができるスケーリング機能や、執刀医の手の震えを除去できる手ブレ防止機能がついています。
執刀医はサージョンコンソールの3D表示モニターを見ながら遠隔操作で装置を動かし、その手の動きがコンピュータを通してペイシャントカートに忠実に伝わり、鉗子などの手術器具が連動して動くことにより手術を間接的に行うのです。このダヴィンチを用いると、腹腔鏡下手術の弱点である鉗子動作の制限や二次元での操作などといった問題点が克服でき、より安定した精度の高い手術が可能となります。
このダヴィンチを用いて手術を行うメリットの第一は「患者に優しい治療」であることです。術後の痛みが少なく、早期の社会復帰が可能です。ダヴィンチによる手術は、腹腔鏡下手術と同様に患者の身体に小さな穴を開けて行う、傷口が小さい低侵襲の手術です。この術式は出血量を極端に抑え、術後の疼痛を軽減し、機能温存の向上や合併症のリスクの大幅な回避などができます。
【術中の出血量が少ない】開放手術と比較すると、極めて少ない出血量です。術中に輸血が行われた例はほとんどありません。
【傷口が小さい】患者の皮膚を切開する傷口は、鉗子を挿入する8〜12mmほどの幅で、最大で6カ所です。
【術後の疼痛が少ない】小さい傷口のみで行われる手術なので、皮膚や筋肉を切開した痛みはほとんどありません。
【回復が早い】傷口が小さい為、術後の回復が早い傾向にあります。開放手術よりも1週間以上も入院期間が短縮されたり、初期の子宮がんの手術であれば約3日で退院できる場合もあります。
【機能の温存が向上】鉗子の操作性が格段に良くなり、緻密な動きによって機能が温存できる可能性が期待できます。
ダヴィンチを用いて行う手術のメリットの第二は「執刀医の負担も軽減」することです。手術を担当する執刀医はサージョンコンソールと呼ばれる機械に座り、患者に触れずに遠隔操作によって手術を行うことができます。これまでは執刀医が無理な姿勢を強いられたり、立ったまま長時間の手術を行うことがありましたが、このような執刀医の肉体的な負担を軽減できます。加えて、手ぶれを防止し、突発的な動きを制御する機能が執刀医のメンタルをサポートし、執刀医にかかるストレスを軽減します。
ダヴィンチ低侵襲手術トレーニングセンター
急速に普及が進む手術支援ロボット「ダヴィンチ」において、外科医の基本操作や技術の向上を目的に開設された訓練施設がダヴィンチ低侵襲手術トレーニングセンターです。
2012年4月に藤田保健衛生大学の学内にオープンした施設で、臨床と結びついたトレーニングセンターとしては日本初となり、全国から多数の医師が訪れ、技術向上のため日々研鑽を積んでいます。
施設では、ダヴィンチの基本操作を学ぶとともに、藤田保健衛生大学病院の手術見学も可能です。将来的には、基礎コースの修了者を対象に、さらに高度な技術を習得できる上級コースを設置する予定とのことです。
以上