遺産分割協議と利益相反
今月の民法サークル「遺産分割協議と利益相反」
静岡大学名誉教授の平野先生を囲んで月一回開いているサークル活動「民法サークル」において、平野先生からお話し頂いた内容を、毎回かいつまんで紹介しています。
【6月民法サークル】
6月の民法サークルのテーマは「遺産分割協議と利益相反」に関するものでした。今回紹介する例題は次の通りです。(2015年6月26日 実施)
【例題】
『夫が死亡したとき、子供たちはまだ未成年でした。私はこれから一人で子供たちを一人前に教育し扶養していかなければならないので、夫の遺産をすべて自分が相続することにして将来の生活設計をたてました。ところが、長女が18歳になって結婚したいといった時に、私は早すぎると言って結婚に反対したことから、娘と私の間に溝ができ、娘は家を飛び出し、男と同棲しました。そして、以前になした父の遺産の分割協議は母が勝手にやったものだから無効だ、と主張し始め、その上多額の分け前を要求していますので、話がこじれて収拾がつきません。』
【解説】
この例題の場合、父親が死亡しましたので、母親と子供が相続人になります。子供は未成年ですので、子供には法定代理人を選任する必要があります。一般的には親権者である親が法定代理人になることができますが、この例題の場合は、母親と子供の両方が相続人ですので、母親と子供は利益相反関係にあり、母親は法定代理人になることができません。この場合、家庭裁判所に申立てを行い、別の人を子供の特別代理人に選任してもらう必要があります。
ところが、この例題では母親が未成年の子供を代理して遺産分割協議を行っています。母親は権利がないのに遺産分割協議において代理行為を行った、すなわち無権代理行為を行ったことになりますので、行った遺産分割協議は無効であり、もう一度相続開始時点に戻って遺産分割協議をやり直す必要があります。ただし、この場合において、未成年の子供が成人に達し遺産分割協議の内容を追認した場合は、相続開始時点に遡って、子供が遺産分割協議を行ったものと扱われます。
尚、子供の特別代理人については、家庭裁判所に申立てを行う際、申立てを行う者(親権者又は利害関係人)が候補者を挙げることができます。家庭裁判所は、候補者の適性などを考慮して、問題が無ければ候補者を特別代理人に選任します。
(所長)