遺留分の放棄
今月の民法サークル「遺留分の放棄」
静岡大学名誉教授の平野先生を囲んで月一回開いているサークル活動「民法サークル」において、平野先生からお話し頂いた内容を、毎回かいつまんで紹介しています。
【6月民法サークル】
6月の民法サークルのテーマは「遺留分の放棄」に関するものでした。今回紹介する例題は次の通りです。
(2016年6月24日 実施)
【例題】
『私には弟が3人いますが、末の弟Xは生まれつき障害を持っており、そのため両親はXの将来について大変心配していました。幸いほかの兄弟はそれぞれ自立し、親の援助なしで十分生活ができるようになりましたので、親は私たち兄弟を集め、「Xは働くことができないので、お父さんの財産は全部Xの生活援助のために残したい。ついては、皆に遺留分放棄の手続きをしてほしい」と言いました。私たちは異存がなかったので、全員遺留分放棄の手続きをしたのですが、父は遺言を書かないうちに死亡しました。またXは施設に入所し、障害者手当をもらい、将来の生活はかならずしも心配すべきものではないことが判明しました。遺留分の放棄をした以上、親の遺産を相続することはできないのでしょうか。』
【解説】
遺留分は、兄弟姉妹(この例題の場合は亡くなった父親の兄弟姉妹を指します。)を除く相続人に一定額の財産を確保することを保障していますが、相続の開始前においても放棄することができます。この場合、家庭裁判所の許可を得て放棄することになります。
遺留分の放棄をすると、被相続人(遺言者)が相続人の遺留分を侵害する遺言を残しても、その相続人は遺留分減殺請求権を行使することができなくなります。
例題の場合、相続人(Xを除く兄弟)が遺留分を放棄したにも拘らず、被相続人(父親)が遺言を作成することなく死亡しました。この場合、どのようになるのでしょうか。
相続人は、遺留分を放棄しても、相続を放棄したことにはなりません。相続人であることにかわりはありません。
例題の場合、遺言は書かれていない為、遺言相続ではなく法定相続に従って相続手続きが行われます。 従って、遺留分を放棄した相続人も、法定相続分に相当する遺産を承継する権利を持ち、相続人として遺産分割協議の当事者になります。
(所長)