子供のいない夫婦には遺言が必要です
平成29年10月に、N市にお住いの70歳代後半のご夫婦が弊事務所に来られました。以前、私が講師を務めた市社会福祉協議会の相続・遺言講習会を受講された方が、このご夫婦のことを心配されて、弊事務所に3人で来られたのです。
ご夫婦の夫Bさんは、5歳の時に、子供のいないA家の養子となりました。ところが、その1年後にA家の養父母に跡取り息子が誕生し、その後も次々と子供が生まれました。夫Bさんは、養父母の考えで養子縁組を解消せず、そのままA家の養子として残ることになり、今日に至ったとのことです。
このご夫婦には子供がありません。夫Bさんが妻Cさんより先に亡くなった場合、どうなるでしょうか。Bさん名義の自宅も預貯金も、法定相続分を考えると、その3/4は配偶者であるCさんですが、その1/4はBさんの実家の兄弟姉妹(又はその甥姪)と養家の兄弟姉妹(実質は弟妹)(又はその甥姪)に相続の権利があります。
実のところ、ご夫婦と養家の兄弟姉妹とは折り合いの悪い人が多く、Bさんの実家の兄弟姉妹(又は甥姪)とはほとんど付き合いがないとのこと。夫Bさんが先に亡くなった場合、妻Cさんはこれらの相続人と遺産分割協議を行う必要があり、相続の手続きは大変面倒で苦労の多いものになります。また、遺産分割協議でこれらの相続人が妻Cさんに協力的でない場合を考えると、妻Cさんが円満に自宅を相続し、安心して自宅に住み続けることができる保証はどこにもありません。
ご夫婦の将来に対する不安、心配をお聞きした上で、今回は、BさんとCさんの双方に、『自分名義の遺産の全てを配偶者に相続させる』旨の遺言書をそれぞれに公正証書で作成して頂くことになりました。
このような遺言を作成すれば、兄弟姉妹の相続人には遺留分がありませんので、ご夫婦のどちらが先に亡くなっても、遺言の内容通りに全ての遺産を自分の配偶者に引継いでもらうことができます。遺産分割協議をする必要もありません。
ご夫婦は、公証役場で公正証書遺言を作成した直後に、『やれやれ、これで安心、ホッとした!』と感想をおっしゃっていました。
子供のいないご夫婦の場合、遺された方(配偶者)と亡くなった方の兄弟姉妹(又はその甥姪)が相続人になります。遺言がなければ、これらの兄弟姉妹相続人と遺産分割協議を行う必要があり、遺された配偶者には大変大きな心理的・精神的負担そして財産的な負担が生じます。
私の建設業のお客様のなかに、経営者である夫を急に亡くなされた方がいます。そろそろ遺言書を作っておいた方がいいね、と夫婦で話し合っていたそうですが…。そのご夫婦には子供がいない為に、奥様と亡くなった夫のご兄弟が相続人となりました。奥様はそのご兄弟と遺産分割協議を行いましたが、結局話がまとまらず、弁護士さんを頼んで家庭裁判所に調停の申立てをして、現在調停が進行中です。夫を亡くして辛い思いをしている上に、夫の兄弟と遺産を巡って争わなければならない状況になっています。
ご自分の遺産の全てを配偶者に相続させる旨の遺言書を作っておくことで、遺された配偶者は余計な苦労をせずに相続の手続きを進めることができます。
子供のいないご夫婦には、遺された配偶者の事を考え、是非とも遺言書を作成して頂きたいと思います。
(所長)
